朝から大変な目に遭った。

大丈夫だって言ってるのに、

「大丈夫じゃないの!早く食べて!早くっ!!」

なんて切羽詰まったように急かされて。

あげくのはてに、いつも車で行ってる学校までも走らされた。

まあ、オレは別に走るの嫌いじゃないし。

それなりに速いほうだからいいんだけど……。


詩織はあまり速いほうじゃない。

しかもずっと入院してたし、

叔父の家でも特に運動をしてなかったらしく、

だいぶ息が上がっていた。

だから少し心配で。

「大丈夫かい?おぶってこうか?」

そう笑いかけたら、

「だ、大丈夫…ありがと」

あからさまに大丈夫じゃないのに、無理に笑い返された。


そうやって大丈夫じゃないのに、大丈夫って言って強がるところが、

前と同じで嬉しいと思う反面。

なぜか胸がざわついた。


なあ、詩織?

もっとオレを頼っていいんだぜ?

疲れたら疲れたって言えばいい。

泣きたかったら泣けばいい。


オレは…お前の全てを受け止めるから。

たとえ、お前の記憶が戻らなくても……。






**********************

「くすくす…ずいぶんお疲れのようだね、詩織」


オレは下駄箱の隅で足を抱え込むように座って、

丸くなっている詩織に声をかけた。


すると詩織は、少し体を跳ねさせてから、

下ろしていた顔をゆっくりと上げた。

そのままキョロキョロと周りに人がいないのを確認。

そしてようやく安堵の息を吐きながら立ち上がった。


「結城くんか……。めちゃくちゃ疲れたよ……」


「ふふ、大変だったみたいだね」


「…かなりね」


苦笑を浮かべながら言う彼女の姿にオレも苦笑する。

その表情、前ではなかなかお目にかかることはなかっただろう。

いつも蹴散らしてたからな。


「……!…に……か?」


「!!」


突然、少し遠くから聞こえる声に詩織は再び体を跳ねさせた。

だんだん大きくなる声と足音。

足音の数からだいたい3、4人だろう。