「ふふ、着てみよ!」


ドア越しに聞こえた詩織の嬉しそうな言葉に、思わず笑みが零れる。


どうやら制服は気に入ってもらえたみたいだね。


それにしても、相変わらず頭の良い女だ。

オレのちょっとした意地悪も難なくこなしてみせる。



“恵たちがいるから”



そう言った時の瞳は、

真っ直ぐで。

透き通っていて。

正直どきっとした。


前が開いているのに気付かないのは、面白いけど。


再び笑みを零すと、中から詩織の感嘆が聞こえてきた。


「可愛い~!!
こんな可愛い制服の学校あるんだなあ…」


着替え終わったみたいだな。

オレもそろそろリビングに………。


とその前に…。


「いい加減出てきたらどうだい?」


「やはり、気付かれてしまいましたか…」


怪しい笑みを浮かべながら、柱の影から現れたのは。

予想通り。

章だった。


「盗み聞きなんて、ずいぶん無粋な真似してくれるじゃん」


「それはそれは、すみません」


謝ってる割にはちっとも悪びれた様子がない。


第一、笑顔が胡散臭い。

オレは聞こえるようにため息をつくと、肩を竦めてリビングを指差す。


「とりあえず、リビング」


「そうですね。ついでに頭領も手伝って下さい」


「はあ?何でオレが」


「別にいいんですよ?頭領が嫌なら詩織さんと二人っきりでやらせて頂きますから」


章はリビングのドアを開けながら、

僕はその方が嬉しいですし。

と相変わらず怪しい笑顔で付け足した。


「ちっ…………やってやるよ」


男と二人っきりなんて冗談じゃない。

言葉じゃ言い表せないほど不服だけど。

こいつと詩織を二人っきりにするほうが不服だと自分に言い聞かせる。


「じゃあ頭領。テーブルを拭いて、それを並べて下さい」


「はいはい」


適当に返事をして、とりあえず言われたことをやっていると。


ガチャン


控え目にドアが開く音がして。


「お、おはようございます」


おずおずと詩織が入ってきた。