「私が思っているより楽しくないかもって言いたいんでしょ?」


「大丈夫。それはないよ」


にこりと微笑みながら手を降ろすと、

結城くんの手も一緒に降ろされた。


結城くんはしばらくこっちを凝視していたけど、

切なそうな表情をして口を開いた。


「どうして、そんなことが言えるんだい?」


いつもより少し低い、掠れた声の結城くんに正直驚いた。


そんなの、結城くんが一番よく分かってると思ったから。


「“どうして”って…恵たちがいるから」


「恵?」


そう。

初めて会ったとき、私を見て抱きついてきた。

涙ながらに私との再開を喜んでくれて。

私の記憶がないと聞いたときは、ショックを受けていたみたいだけど……。


「あんなに暖かい人たちがいるんだもん。私の学校生活、大したものだと思わない?」


少し自慢気に笑ってみせると、彼はしばらく止まって、また顔を附せた。


な、なんか今日の結城くんヘンだな……。

どうしよう………。


………………。

これも言っといたほうがいいかな?

……よし!


「あ!あとね、もし万が一楽しくなかったら、私の高校生活を乱してる奴をぶっ飛ばして、楽しくするよ?」


慌てて付け加えると、結城くんの肩が微かに震えた。


「結城、くん………?」


心配になって顔を覗き込もうとした途端。

勢いよく顔が上がった。

そして彼は


「ぷ…あははは!!」


勢いよく笑いだした。


一体何なのーー?!


「ゆ、結城くん…?」


「はは…くすくす、悪い悪い。ちょっと意地悪言ってみた」


笑いすぎて出たのだろう涙を、拭いながら爆笑する彼を

私はただ口を呆然と開けて見ているしかなかった。


でも笑われてるだけじゃ性に合わない。

何が面白いのか聞き出さないと!


私は心の中で握った右手を高く掲げると、怪訝そうに眉を潜めて彼を問い詰める。


「何がそんなに面白いの?いきなり笑いだすなんて………」


それでもまだ笑ったまま、結城くんは答えた。