こうちゃんは私を家まで送ると
 私の頭に軽く手をポンと置くと
 笑顔でじゃあな!そう言うと自転車で帰って行った。
 自然と零れる私の笑み。
 こうちゃんは本当に温かいな。
 優しくて、とても…。

 中川先輩…今頃何してるのかな?
 やっぱり私中川先輩の事
 完全に忘れてないなぁ。
 馬鹿だなぁ、私。あんな事言われても
 まだ好きだなんて…。


「ただいまぁ…。」


 玄関を開けて、家の中にはいると
 真っ先に階段を登り自分の部屋へと向かう。
 部屋の扉を開けるとベッドの上に倒れる。
 しばらく、倒れたまま何も考えないでそうしていた。
 はぁ。小さなため息。


「本当…何やってんのかな。」


 馬鹿な自分。普通好きでもない人と付き合えないよね。
 枕を手に取り、顔の上にのせる。
 息を止めしばらくして


「…ふわーー!!苦しいっ!!」


 起き上がり、枕を左手でどける。
 目が覚めたかも。これは自分で決めた道なんだ。
 グズグズしてても、中川先輩は
 忘れなきゃいけないんだ。
 遠い存在の中川先輩なんて、忘れた方が…。
 いいんだよ。こうちゃん、桃のためにも。
 大切な人のためにも、悲しませたくないから
 こんなわがまま言っても仕方ないんだ。

 ふと、カレンダーを見る。7月6日。


「あーー!!明日七夕じゃん!!」


 忘れてた。やばい、竹っ紙っ。
 急いで部屋から飛び出し、
 リビングへ向かうと家族がいた。
 お兄ちゃん2人が竹を飾ろうとしていた。


「あ!お兄ちゃん!私が先に願い事書くんだからね!?」


「なんだ?おめー、いつ帰ってきたぁ?」


 一番上のお兄ちゃん、琉雅兄ちゃんが
 私の顔を見るなり指を指してきた。
 その隣で竹を支えてるもう一人のお兄ちゃん、
 隼人兄ちゃん。とっても優しいの。
 微笑むと隼人兄ちゃんは竹を離す。
 一気に重心が琉雅兄ちゃんにくる。


「なっ!?隼人てめー!」


「可愛い妹が帰ってきたんだ、優しく出迎えなきゃ。おかえり、優愛。」


 隼人兄ちゃんは私に近付くと優しく頭を撫でてくれた。
 琉雅兄ちゃんは竹を急いで飾ると
 私の所に駆け寄ってきた。


「べ、別に。隼人に言われたからじゃねーけど。おかえり、優愛。」


 意地悪で最悪だけど、不器用な琉雅兄ちゃんも好き。


「ただいまぁ♪」