しかし、不思議なことに、いくまでに誰一人として人に出くわしていない。
風ひとつ吹かない。
しだいに彼女は不安を心にいだくのだ。

この町には"自分一人"しかいないのではないか?と・・・

そんな疑問いだきながら彼女はスーパーのなかへと入る。
有り得ないと思っていたことはが目の前で起こっていた。
店員も客も、誰一人としてそこにはいない。
そう、彼女以外に誰一人として。

「なっんで...?他に誰もいないの・・・?」

彼女は買う予定だった野菜のことなど忘れ、目的を人探しへと変え、人を探し出す。
いつもならまわりに溢れている人の群れ。
飽きてしまういつもの風景が、一瞬で崩れるとこれまで経験したことのない不安が彼女の心を襲うのだ。

ー誰か・・・!誰か返事してよ・・・!

そんなことを思っている時だった。

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!

いっせいに町にある電話が鳴き声をあげた。
それに驚いた彼女の背中は一瞬硬直するが、簡単に怪しいと思うその電話のひとつをバッグのなかから手にとり、着信ボタンを押して自分の耳へと当てる。

「もしもし!!誰ですか?!いまどこにいるんですか?!」

普通ならそんなことを聞くのはおかしいと思うのだがそんなこと気にすることはない。いかに彼女の心が追い詰められているかが見てわかる。
恐怖や不安。
黒い感情に彼女はおし潰されそうな状態。

希望をかけたその電話からは・・・

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
死ね、という言葉が立て続けに繋がり彼女を襲い始める。
若い女の声。
しかし、心の奥底から言っているその言葉は、彼女にとって鋭く尖ったんナイフのようだった。
しかもその言葉は彼女が持った携帯電話からだけでなく、町に溢れる音声機器すべてから発されていた。

「・・・い・・・や・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

耳もとから切り離した携帯電話を地面へと打ち付けた。
飛び出た電池パック。液晶画面にも亀裂が入り使いものにならないその携帯からは、延々と「死ね」が発されるのだった。