私が桐生家を出てから、1週間がたった
あれから何も変わりなく、平和に暮らしている
私が由季と結婚することを条件に父にくれた仕事も、順調に続けられている
このまま、時間ばかりが過ぎ、いつか由季のことを忘れられる日が来るのだろうか…
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今思い返すと、私は由季のどこを好きになったのだろうか…
口は悪いし、女遊びも激しい
私のことなど、都合のいい女ぐらいにしか思っていない
価値観だって全く違うし、今どきの話だって全く通じない
ほんと、どこが良かったんだろうな…
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気付いたら、好きになっていた
由季が女の人といるのも、由季に冷たくされるのも、嫌だった
ただ側にいれるだけで良かった
でも今は、由季が運命の人ではなかったと諦めるしかない
私には遠くから、由季の幸せを願うことしかできない
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夏妃が出て行ってからずっと、俺は悩み続けていた
夏妃はきちんと自分の想いを伝えてくれた
次は俺の番だ
そう思うのに、行動に移せない
コンコン
「嶋田でございます」
「入れ」
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「失礼します。社長、お疲れのようですが大丈夫ですか?」
「心配には及ばん。何か用か?」
「今朝、連絡がありまして、本日会長がこちらに来られるそうです」
父が?
「いきなりどうしたんだ…」
「なんでも、大事な話があるとか…」
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大事な話?
今まで、父とは真剣に話し合った事などなかった
この会社を継げと言われた時も、父はひどく酔っ払った状態だった
結婚すると言ったときも、父は海外にいて電話で告げただけだった
「分かった」
一言返事をすると、嶋田は部屋を出て行った
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「入るぞ」
声と同時に入ってきたのは、父だった
「急に、どうしたの?海外に行ってるはずじゃ…」
「どうしてもお前に伝えたい事があったんでな」
ソファに腰かけた父に、嶋田がコーヒーを差し出す
「少し席を外してくれないか」
「かしこまりました」
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嶋田が出て行ったのを確認すると、父はひと口コーヒーを飲んで話し始めた
「お前、夏妃さんはどうした?」
「それは…」
父には、夏妃が出て行ったことを話していなかった
「どうせ、もういないんだろ?」
ずばりと言い当てられ、言葉を返すことができない
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「お前はいつだってそうだった。仕事は真面目にやるくせに、女のこととなるとてんで駄目になる」
父に女性関係の話をしたことはないはずだが、全てお見通しのようだ
「なぜ、夏妃さんと結婚しようと思ったんだ?
いくら都合がいいからって、嫌いな女とは結婚しないだろ?」
少なからず、夏妃に惹かれている部分はあると思う
でも、それが本当に恋なのか、愛と呼べるものなのか…
今まで適当な恋愛しかしてこなかった俺には、分からなかった
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