「ところで、そはや丸」

 部屋に戻り、高坏に据えられていた餅を口に放り込みながら、呉羽はその場でごろりと横になっているそはや丸の前に、ぺたりと座った。

「物の怪を身の内に飼うのは、危険なものなのか?」

「物の怪にもよるがな。つーか、普通に考えりゃ、ヤバいだろ。取り憑かれるのと一緒だし」

 乱暴な説明だが、あながち外れでもない。
 だが実際にそはや丸に取り憑かれている呉羽は、もぐもぐと餅を咀嚼しながら、なおも首を傾げる。

「烏丸だって、そんな邪悪な奴じゃなかったし、ヤバいとも思えんなぁ」

「お前は自分を基準にするからな。俺様を操れるお前さんは、すでに普通じゃないんだぜ?」

 横になったまま言うそはや丸に、呉羽はきょとんとする。
 しばらく考えた後、何か言おうと口を開いた呉羽を、先回りしてそはや丸は遮った。

「小さいときからずっと物の怪と暮らしてたからかな。比丘尼(びくに)もまぁ、お前の力を見抜いてたからこそ、俺に託したんだろうし」

 赤子の頃に、京の鳥辺野に捨てられた呉羽は、比丘尼という妖に育てられた。
 しかし十歳ぐらいのときに、呉羽をそはや丸に託し、比丘尼は忽然と消えてしまったのだ。