「そういや、只人の右丸が、長く烏天狗なんか身の内に飼ってられるもんか? 烏天狗なんて、結構な物の怪だぜ。ちゃちい妖怪一匹ぐらいでも、人なんて呆気なく壊れるじゃねぇか」

「・・・・・・そうか? お前だって、相当な妖力だろ? 長く飼っているが、別に私は何ともないぞ? 身の内に飼ってるわけじゃないからか?」

「言っておくが、俺はお前に飼われているわけじゃない。その気になれば、すぐさまその細腕、斬り落とすからな」

「別に構わんと、いつも言ってるだろ。お前、そう言いながらも、ずっと私とあるではないか」

「その気にならないだけだ」

 ぷい、とそはや丸はそっぽを向く。
 よくわからん、と呉羽は首を傾げつつ、起き上がって袿(うちぎ)を羽織ると、部屋の隅に置かれていた桐箱から、紙を一枚取り出した。

 それを器用に蝶の形に折り、簀の子(すのこ)に出ると、空に向かって、ふっと息を吹きかけた。
 紙の蝶は、本物の蝶のようにひらひらと舞い上がると、そのまま南の、東三条邸のほうへと飛び去っていった。