生徒たちの姿をすり抜けて、目に映ったのは…拓馬と佳奈の姿だった。
「え…」
幹は、思わず声を出した。
周りに冷やかされながら、照れ笑う…2人の姿。
「え、付き合ったん? あの子ら…」
美衣子は、あわてて雪奈の隣に足を運んだ。
幹は、彼女たちの後ろで立ち尽くす。
「おめでとう!!」
それは、2人の進展を明確に知らせる…周りの言葉だった。
…3人は、ポカンと立ち尽くす。
「もうええって! 恥ずいからっ」
耳まで真っ赤にした拓馬が、満面に笑みをこぼしている。
…目の前が…真っ暗になった。
「…幹」
美衣子は、眉間にシワを寄せて、幹を見た。
「…やっぱ、ちょっと…きついな」
雪奈も、また…ショックを隠せない表情で、苦笑いをする。
…とうとう、くっついたんや。
「幹?」
「…いけるか?」
心配そうな2人の顔が、目に飛び込んでくる。
人込みの中で、しっかりと手をつなぐ…2人の笑顔。
「…帰ろか」
もう、どこから声を出してるのかさえ…わからない。
…自分が失恋したことよりも、つらくなる…光景。
盛り上がる生徒たちに背を向けて、3人は逃げるかのように立ち去った。
ぎこちない空気のまま、寄り道もせず、まっすぐ帰るのだった。
…3カ月後。
「幹っ、帰るで!!」
「ごめんな! 今日、日直で職員室寄ってたから、遅くなった!」
「うん、待って。すぐ行く!」
…放課後、教室でくだらない話を繰り返す美衣子と幹に、声をかける男の子たち。
2人はセカセカと、鞄を手に駆けつける。
「帰り、4人で…ウチ来おへん?」
靴箱の前で、美衣子が声をかけてくる。
「行く行く」
黒のマフラーを首に巻きながら、幹は明るくうなずいた。
「俺らも行っていいん?」
彼女の家にまだ慣れていない様子の輝緒が、不安そうに問いかけてくる。
「別に、親は何も言えへんし。いけるよ」
「じゃあ、俺も行くわ」
クスクスと笑う美衣子に、輝緒は安心した表情を見せた。
彼の反応を確認した後、和貴も誘いを受け入れる。
幹は、そんな光景に心地良さを感じながら、微笑んだ。
…あの文化祭の日から、あたしの周りは少しずつ変化していった。
小さなことから言えば、雪奈はテニス部に入部した。
友達に誘われて入ったらしいが、夢中になれるものができたと、現在…彼女は楽しく過ごしている。
美衣子と彼氏の輝緒は、仲の良いカップルから…ケンカの絶えないカップルに変化した。
仲良くしてるかと思ったら、次の日には大ゲンカ。
でもやっぱり、互いに別れる気はない様子で、すぐ仲直り。
“2人だとすぐケンカするから、グループで遊びたい”という美衣子の提案で、最近はあたしと和貴を交えた4人で行動することが多い。
そう、今…あたしの隣には和貴がいる。
付き合っているわけではないが、彼は友達以上…恋人未満の存在として、そばにいる。
ここ数カ月、あたしは彼を利用しているのかもしれない。
好きなのか好きじゃないのか、はっきり言って…自分の気持ちはわからない。
…と言うか、もう考えるのが嫌になった。
それを理解した上で、“そばにいたい”と彼は言う。
甘えているかもしれないが、それが妙に楽で…心地良い。
一緒に過ごすことで…近くなる4人。
…今のあたしには、この関係が一番楽しいねん。
「こんなんしかないけど」
女の子らしくヌイグルミが飾られた部屋でくつろいでいると、お盆を手にした美衣子が現れる。
「ええよ、ありがと」
3人は、テーブルに置かれたジュースとスナック菓子に、手を伸ばした。
「もうすぐクリスマスやなぁ」
年末を目前に、美衣子がポツリとつぶやく。
その言葉に、輝緒がにこやかに微笑む。
「どっか…行きたいとこある?」
「なんか、ツリーが飾ってあるとこ行きたい」
“一緒に過ごすのが当たり前”と決定された2人の会話を聞いて、和貴が幹に声をかけた。
「24日、何してるん?」
「…何もしてないよ」
“多分、和貴と過ごすことになるのかも”と考えていた幹は、彼の誘いを迷うことなく受け入れた。
…そして、ふと頭の中によぎったことを、もみ消すかのように笑い続ける。
クリスマスに過ごす…あの2人の光景など、考えないように。
「雪奈、幹ちゃんおはよっ!!」
翌朝、校門前で登校する2人の背中に、拓馬が声をかけてくる。
「おはよ、拓ちゃん」
2人は、彼に笑顔であいさつを返した。