「早く帰ってこいって、郁也に何か急ぎの用なの?」
さっきの郁也の言葉を思い出してきいてみた。
『あぁ、俺の仕事先の店長にあいつを紹介してやろうと思って。
あと2時間で仕事始まるから、それまでに連れて行かないとならないんだけど…』
「郁也バイトするの?」
『らしいよ。金貯めるんだって』
「へぇー」
あいつ、偉いな。
適当な奴のように見えて、ちゃんと考えていたんだ。
『あっそう言えば瑞樹、好きな女ができたんだって?』
「えっ…!」
突然声色を変えた達也につかれた。
…郁也が話したのか。
電話の奥で達也がにやりと笑っているのが、声で想像できる。
『どんな子か知らねぇけど、今度連れてこいよ。知り合い割引で安くするよ』
「う…あ、あはは…」
達也が働いているのは、海辺にあるオシャレな洋食レストラン。
俺は行ったことはないけど、女の子に人気がある店らしい。
成海さんは行ったことあるのかな?
…もし俺が一緒に行こうって誘ったら、成海さんは首を縦に振ってくれるのだろうか…?
『…じゃあまたな。来る時連絡しろよ』
「…う、うん。またね」
3分ほどの通話時間で、電話を切った。