ピンポーン…
皿を洗い終わったと同時に、インターホンが鳴った。
濡れた手を拭いて玄関に行き、ドアを開ける。
外の冷たい空気が勢いよく室内に入ってきた。
「よぉ、瑞樹」
そこに立っていたのは、分厚いコートを着た郁也。
「どうしたんだ急に?」
「あぁ、俺のオカンが瑞樹ん家のオカンに渡せって、これ。昨日まで九州に行ってたんだけど、そのお土産だってよ」
郁也が紙袋を差し出してきた。
「え、わざわざ今日でなくても月曜に学校で渡してくれてよかったのに」
「オカンが生モノだから今日持って行けってうるさいんだよ」
かったるそうに言いながら髪をわしゃわしゃと掻く郁也。
どんな物が入ってるのかと、俺はふと紙袋の中を覗いた。
「…ねぇ…これ、生モノじゃないよ?」
「はぁ!?」
「ほら」
袋から箱を取り出して、郁也に見せた。
シワ1つなく箱を包む緑色の包装紙には、大きな“せんべい”の文字。
「…くっそあのババァ。
ついでに買い物に行って来いって言っておいて、本当はそれが目的だったんだな」
郁也は舌打ちをして顔を歪めた。
…どうやら郁也はおばさんに騙されたみたい。
買い物と俺の家、ついでなのは俺の家の方だったらしい。