譜面台に立てかけられたままの楽譜と、イヤホンをとって、使っていないミニテーブルに置いた。

向かいあった2台のグランドピアノ。

その片方に座って、緒斗くんをみつめる。


「一緒に弾くと、クセになって困っちゃうみたいなんだけど、覚悟はいかが?」


はじまりの日にもらった言葉を繋げた私に、持ち主だった緒斗くんは、ふんわりと笑った。


「すでに中毒症状でこまってるよ」




ーー…



高砂の横に置かれた2台のグランドピアノ。

カーテンが開かれたガラス張りの窓から差し込む光が、ホワイトをより尊く輝かせる。

キラキラ、キラキラと。


ダークグレーのタキシードを着た緒斗くんが、差し出した手のひら。

そっと自分の手を重ねて、エスコートしてもらってグランドピアノの前へ立つ。


同じ幸せ色をした、Aラインのウエディングドレスを踏まないように、裾を持ち上げて腰掛けて。


向かいに座った、緒斗くんをみる。

緒斗くんが、私をみた。



ーはじまりの合図は、それで十分。



2人で合わせて息を吸って。

さいしょの音を、今。



[ はじまりの曲 ]

-end-