振り向いた先の先生は、覚悟を決めた顔をしていた。
「…心陽(こはる)だって、生徒とキスしてたじゃないか」
「…え?」
「…なんのこと?」
目の前がチカチカしたのは、私の知らない "あの日" が、まだあったんだと知ったから。
"…ごめんな" 私にだけこっそりと、謝罪の言葉を打ち明けた先生は、今日まで言わずにいてくれたんだろう。
私が、傷つくと分かっていたから。
きっとこんなことがなければ、一生知らずに、夢の中を過ごしていたはず。
「…1か月前くらいに、中庭で木の影に隠れるようにキスしてただろう?
なかよくお弁当まで持って、ベンチに座って」
ー先生が守ってくれていた、夢の中で。
"あの日" 、私が先生にたどり着いた時には、すでに正気が抜けていたから、
その前に、2人のそういう一部始終をみた、ということで間違っていないんだと思う。
…最低だ。
ギリギリのところで保っていた愛は、今にも音を立てて、焼かれていってしまうよう。
旭日先生からしたら、キスすらも大したことないのかもしれないけれど、
そんな軽い気持ちで、私のはるを汚してほしくなかった。
奪ってなんか、ほしくなかった。
…私も、霞先生としてしまったけれど。
あれは…夢の中だったから。