「…ねぇ緒斗くん、聞いてもいい?」
なのに、旭日先生は、訴えかけてる私じゃなくて、霞先生を見た。
淡々と聞いてたと思っていたのに、決してそうではなかったんだと知ってしまったのは、
か細い声が、震えていたから。
「お弁当とか、たぶらかすとか、返してとか、何のことだかさっぱり分からないんだけど。…霧山さんに何したの?生徒…でしょ?
わたし達、結婚するんじゃなかったの…?」
そんなに弱々しくなってもなお、逸らすことを知らない瞳が、先生を離さない。
「それ、は…」
代わりに離れたのは、
私の肩を支えていた先生の手。
本来の行き場を求めるように、旭日先生へと伸びる腕が、虚しいほど見事に交わされる。
「一生守ってくって、霧山さんのこと?
プロポーズの時にくれた言葉は、ウソだったんだね」
「っ、ウソな訳…」
「じゃぁ、さっきのキスは何?
緒斗くんって、誰とでもキスできちゃうような人だったんだ?
3年も一緒にいたのに、知らなかった」
「………っ」
霞先生の話を最後まで聞こうとせずに、
"知らなかった" なんて、どの口がいうの。
そうさせたのは、あなたなのに。
「そういう旭日先生は、潔白なんですか?」
旭日先生と霞先生の間に、不自然にできてしまった空間。
割って入ると、162cmの私よりも、7cmは低い旭日先生に見上げられる。
細く長くカールされた睫毛があざとくて、これにはるはトキメイタのかと思うと、イヤになる。
「…私は緒斗くんのこと、裏切ったことなんて一度だってない」