「霧山、落ち着けって…っ!」


先生に体を引かれて気づく。

衝動的に、旭日先生の肩を掴んでいたことに。


…それでも。


「霞先生は黙ってて!
今はこの女に話してるの!」


後に引くことなんて出来ない程に、私の中のマグマは溢れ出していた。


…だって、この人は持ってる。

最初から、未来まで約束された愛を持ってるのに。


私の手の中にあったものさえも、春風のごとくさらっていった。


…そこまでしたのに、無情にも、

愛されているが故に選べてしまうのだ。


私の手の中にあった愛も、
心の拠り所さえ。

たった一つの決断で、自分のものにできる。


私は必死に、ギリギリのところで繋ぎ止めていたのに。


私の幸せばかり、持っていかないで。



「……っ」


抑え付けてくる先生の手を払ったら、
泣きたくないのに、涙があふれた。

酸素もまとめて吐き出してしまったのかと思うほどに、足りない酸素に、肩まで動く。


そんな私とは対照的に、何も言わずにじっとみつめてくるだけの旭日先生に、湧き出てくる黒い感情は、止まることを知らない。


「何か言ってよ…!

言い訳でも弁解でも、してみなさいよ…っ」