私は鏡が大嫌い。

鏡は正直で。

残酷で。

大嫌いな私を映し出す。

見たくないの。

知りたくないの。

真実はいつも冷酷で。

現実は優しくなんてなくて。

だから、私は鏡を割った。

しんと静まり返った部屋で、

ガシャンと響き渡る音。

虚しさが心に染み渡る。

本当は分かっているの。

たとえ鏡が消えたとしても。

大嫌いな私はいなくならないってことを。

悲しくなって、目を瞑る。

しゃがみこんだ私の背中に合わさる体温。

「怪我はない?」

優しい声がそう聞いた。

私によく似たもう一人の私。

私達合わせ鏡みたいね。

見た目はこんなに似ているのに、中身はどうしてこんなに違うのかしら?

あなたの事なら好きになれるのに。

なりたい自分がここにいる。

なれない現実がここにある。

だから私は足掻くんだ。

合わせ鏡に写りこむあなたに近づきたくて。

私を好きになりたくて。

背中に伝わる体温に体を預けて。

「大丈夫」

自分に言い聞かせた。

いつか、鏡を直視できるようになるために。