「…松野」




松野は相手の手を掴んでいる。



そしてすごい形相で睨む。




「えぇ加減にせぇて言うたよな」




その瞬間、相手が吹っ飛ぶ。



あたしは何が起こったのかわからず、ただポカンとその場に立ち尽くしていた。



そして数秒後理解する。




松野今、殴った?




怖くなった。



あんなに優しい松野が、人を殴るなんて思わなかった。



足が震える。



今にも崩れ落ちそうになる。




「…大丈夫?」




今度はあたしが聞かれる。



心配そうな顔して、あたしの顔を覗き込む。




「あ…うん、大丈夫」




嘘。



大丈夫なんかじゃない。



だけどそう言ってないと、ダメになりそうだったから。



自分に言い聞かせてた。




「もうあの子に近づくな」




松野と思えないほどの低い声。



それだけ言い残して、こっちに向かってきた。




「行こ」




そう言って、あたしの手を引っ張った。