「莉奈…約束して」

私は、こんなに優しい人に、こんな声を出させたのだ。
絞り出すのも精一杯なくらい、痛みに満ちた声を。
そんな声を出させるほどのことを言ったのだと、すとんと自分の中にその事実が落ち着いたと同時に、激しく後悔した。
自分の言った言葉の重みを知った。

でも。

「……くるし…かったの」

 私の頬を撫でて行った風は冷たさを含んでいて、もう季節が変わるのだと告げていた。
私は陸の大きな背中に両腕を回し、シャツを強く握りしめる。

「莉奈」

 優しく私を呼ぶ声に、押されるように私の両目から涙があふれてくる。
 言葉にできない感情もボロボロと一緒にこぼしていくみたいに。

「本当に、この世から消えてしまいたいくらいに苦しかったんだよ」

 私の言葉を受け止めながら、陸は何度も何度も頭を撫でた。

「もう、死んでしまいたいって、本気で思っちゃったんだ。ただ、毎日が、つらくて、怖くて!!」

 私は叫ぶようにそう言い、嗚咽を漏らす。

「怖…かっ…よぅ」

 生きていくということが、こんなにも怖いことだなんて数か月前までの私は知らなかったのだ。

 そして、もう知る前には戻れない。

 後はもう、何もかもがぐちゃぐちゃで、ひたすら子供のように泣きじゃくった。

私が落ち着きを取り戻すまでの間、陸は私の中からボロボロとこぼれていく言葉に丁寧な相槌をうち、頭を撫でながら何度もよく頑張ったねと繰り返しつぶやいた。

私はずっと誰かに言って欲しかったのかもしれない。

こんな風に、「頑張ったね」と。

たった一言。

陸の腕の中でボロボロに泣いたその夜。

私はこれから先の人生で、何が起きたとしてもきっと陸だけは嫌いにはならないとそう強く思った。