緊張が最高潮に達し、全身に鼓動が響く。
私は持っていたスーパーのビニール袋をギュッと握り締め、ゴクンッと唾を飲んだ。
「桜井先輩ですよね?中学の後輩の西原です」
「………」
「昨日の昼頃、高校の桜の下で会ったの覚えてませんか?」
先輩は何も言わず、ボールを鞄にしまい始めた。
温厚で人懐っこくて、皆から慕われていた先輩。
だけど、今私の目の前にいる先輩にはそんな要素一つもなく、近寄り難いオーラが出ていて恐怖すら感じる。
「驚きました。県外の高校に行くって言ってたから…まさか同じ高校にいるなんて…」
声が震える…
私は俯き、目をギュッと閉じた。
身体が緊張と恐怖に支配されている。
先輩に何があったのか知りたい。
余計なお節介なのはわかってる。
でも、もし何かあったのなら力になりたい。
ザッザッと近付いてくる足音。
顔を上げると、無表情の先輩が私の事を一度も見ずにスッと横を通り過ぎた。