にっこりほほ笑んだから、てっきり私に何か言いたいことでもあるのかと思ってあとに続く言葉を待ってみる。けれど、待てど暮らせどお兄さんは一言も発する様子がない。
その沈黙に耐えられなくなった私は、とにかく顔に笑顔を貼り付けて「は、はじめまして」と無難に挨拶をしてみた。

……んだけれど、私の言葉を聞くなりさっきの微笑みはどこ!? と言いたくなるくらいの、冷たい視線を向けられて、思わずビクリと身体がすくんでしまう。

その冷笑に笑顔でいられるはずがなくて、口を引き結ぶ。
出来ればこの部屋から出ていきたいくらいだ。それほどまでにお兄さんの雰囲気が怖い。
でも、扉はお兄さんの後ろにあるから、それも叶わないだろう。


とにかく下手に、下手に、と自分に言い聞かせて、お兄さんの出方を待つ。


しばらくその状態のままひたすら固まっていた。
前触れもなくお兄さんはハッと鼻で笑って、それから「ただの変な女じゃないか」とのたまった。



「へっ!?」


……変な女!?


ここで突っかからなかった自分を褒めてあげたいくらいだ。

なのにお兄さんは相変わらず私を見下したような態度を変えることはない。


とっても失礼! この人とっても失礼!
レティがいたときと全然違う!


「出す声すら間抜けだとはな、救いようがない。 本当に異世界から来たのか?」

「嘘ついてどうするのよ!? この状況が夢であってほしいのはこっちの方よ!」


自分でもなんとか受け入れつつあるこの状況を疑われて、私は我慢することなく目の前の男に噛みついた。

この国の王子か何か知らないけど、初対面なのにこの態度ってあり得ない。