シンクが動物の姿をしていないと、何か悪いことがあるのだろうか。

何が良くて何が悪いのか、その基準が分からない私はシンクをどうやったらかばえるのか分からなくて、唯一できる手段として口を噤んだ。


「サラ」


そんな私に何を思ったのか、その小さな身体でまっすぐに私を見つめてそう呼びかけたレティの瞳は、子供とは思えないくらいの意志の強さがこもっていた。

なに、と返事する私の声は、頼りないくらいに震えている。


レティは小さくても一国のお姫様なんだと、今この瞬間に身を持って痛感した。




「サラ、あなた魔法が使えるでしょう?」


そして、予想すらしていなかった言葉に私は言葉を失った。


「え、待って! 私今日この世界に来たばっかりなんだよ? ただの女子高生だった普通の人間が魔法が使えるわけないよ」


“女子高生”という言葉をレティが知っているはずもないのに、その言葉を使ってしまったのはそれほどまでに動揺していたから。


「でもね、実際サラはお兄様の魔法をことごとく打ち破ってる。 それにさっきだって魔法で私のこと守ってくれたわ」


そんな動揺すら見ないふりで淡々と言葉を並べるレティは、さっき芝生の上で話していた時の可愛いレティの面影すらなくて、怖さすら感じる。


「だって、あの時はレティが助けてくれたんでしょう? 私が意識失う寸前、こう、眩しいくらいの光を放って魔法を使ってくれたんでしょう?」


告げられた事実を信じられない私は焦りながらも言葉にするけど、この現実を受け止めることを無意識で身体中が拒否している。