夏夜くんは寄りかかっていた車から体を起こし、手を挙げた。 「絢ちゃん」 夏夜くんが早く来い、と手招きをしている。 私は履きなれていないヒールの靴にしっかりと踵を入れ、彼の元へと歩き出す。 その時、ブワッと風が吹いた。 「絢……」 聞き覚えのある、懐かしい彼の声がする。 風は、まだ吹いていた。