それでも自分の気持ちが、榊への「好き」という気持ちと、宮下への「好き」という気持ちがまるで異質なものであることは自覚せざるを得なかった。
 あの、たった一言で感情が天に浮いたり地に沈んだりするようなまっすぐで激しい自分が、今はどこにも出てこない。
 なのに、この人を手放したくない、とは思う。
 それは、店に並んである玩具を欲しいと願うような、そんな一時的な気持ちなのだろうか。自分では全く分からない。
 答えは一体どこにあるのだろう。
「ねえ。ユーリさん」
 この人の中に答えがあるとは思わないが、それでも、探さないよりはマシだと、引きこもり中の部屋の中へ入った。
「なにー?」
 髭はぼーぼー、髪はぼさぼさのまるでミュージシャンとは思えない単なるニートらしきこの人ユーリは、今日もパソコンの前で目にクマをつくりながら、何か作業を繰り返している。
「あのさあ、今、好きな人いる?」
「今はおらんなあ」
 香月が背後のベッドに腰掛けても、彼はパソコンから視線を離さない。
「相談に乗ってほしいことがあるんだけど……」
「何? レイのこと?」
 奴はようやく振り返る。
「いや、違うけど」
「そっか、この前会ったんやってな」
「うん、そう、普通だったよ。元気そうで良かった」
「うん、元気になったんよ。最初は結構なんというか、無言の刃やったからね、今はよー喋るようになってほんま、よかった」
「そっか……」
「で?」
「え、あ、うん。そう……私、今、好きかもしれないって想う人がいるの」
「あ、そうなんや……」
「うん。会社の人でね。真籐さんじゃないよ。上司。けど、昔好きだった人みたいに、こう、前が見えないほど好きじゃないの。だから……、それって好きなのか、憧れ、なのかが分からなくてね。その、上司は付き合っても、結婚してもいいって言ってくれるんだけど……なんだか、悩んじゃってね……」
 言葉にして、ようやく心の中が整理された気がする。
「好きって思ったら、好きよ。好きって思う?」
「その人が他の人と結婚するのは嫌だと思う。けど、だからって自分? って聞かれたら、どうなのかなって感じなの」
「うーん、けど、相手に好きって言われたのに、まだ好きかどうか分からんって、もう好きにならへん気がせん?」
「……そうかなあ」
「そうだったやん(笑)。で、付き合おうかどうか悩んでんの?」
「うーん、その上司は私が好きだと自覚してから付き合えばいいって言ってくれる」
「おお! 大人やな、どこかの誰かさんとはえらい違いや(笑)。
 せやけど、それがまだ自覚できへんわけや」
「うんそう……。私、ほんとはずっと好きな人がいるのよね」
「えー、誰?」
「今外国にいってる元……彼」
「え―! なんちゅぅ、初耳や!」