そのにこやかな表情に、一瞬で頬が赤くなるのが分かる。
「え、あ、そ、そうなんですか……」
「うんそう、そう言うと意識してしまうから言わないでおこうと思ったんだけどな、つい口走ってしまった」
「い、いえ、あ、そうだったんですか……」
「うん」
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「私のどこがそんなにいいと思ったんですか?」
「それ、前も聞いてたな」
「え! そうでした!?」
「うん……、初めはなんて綺麗な子なんだろうって思って、それで同じ店になって意識し始めたって感じかな。今ももちろん綺麗だと思っているし、ちゃんと向き合える人だと思ってる」
「……そんな……」
「まあ、今困る気持ちは分かる。いや、俺もどうしても結婚ということがしたいわけじゃないし、このまま独身でいるのもいいかなって思ってるくらいだから」
「そうなんですか……」
 宮下は次々と言葉にして伝えてくる。それを聞き出したのは自分であるはずなのに、なかなか受け止めきることができない。
「香月にも結婚に対しては夢があるだろうし」
「いやー、そんなこと全然考えたことなくて。なんか、結婚に繋がるような恋愛なんてできないってずっと思ってました。何故か」
「へえー……女の子って何歳までには結婚したいとかよくあるのにな」
「そういえばそうですよね……周りがまだ独身だからかな」
「そうか……」
 そろそろ出る時間である。少し考えて、休憩がしたい。
「そろそろ……」
 先に言い出したのは、香月。
「……そうだな」
 その一言がなんとなく名残惜しそうな一言に聞こえて、更に顔を俯かせる。
 事実、時々意味もなく電話をしたいと思う。他愛のないメールもしたいと思うし、もし今彼が他の人と結婚をすると言い出したら何もしなかった自分を後悔するだろう。
 後悔?
 それは多分、好きだから。
 宮下への気持ちは明らかに憧れであった。それは今もあまり変わらない。
 それでも、その気持ちを好きに変換しなければ、多分後悔する。
 誰か他の人の物になってからでは遅い、今が彼を自分の物にする時。きっと、今しかない。