「宮下店長、今も私と付き合ってもいいと思っていますか?」
「……、期待していないといえば嘘になる」
「もし、宮下店長が、私とお付き合いしてくださるというのなら、私、付き合ってみたいんです」
「みたい?」
 宮下の切り替えしと、一瞬寄った眉間の皺はその言葉を確実に表現している。
「私、分からない。なんだか、色々分からないけれど、宮下店長とこうやって一緒に食事をしたいと思うし、電話をかけたいなあと思うときもある。
 だけど私、今の立場だと、ただの部下の立場だと……限界があるから……。
 だから……どう言えばいいのか……」
「好きかどうかは分からない、ということ?」
「……好きというのがどういう気持ちなのか、そこが自分の中で問題なんです。自分だけじゃ答えが出ない……」
 しばらくの間沈黙が続いた。宮下は何かを考えているようで、テーブルから視線が離れない。
 一方香月は、今放ってしまった一言をどう利用するも宮下自身だと、ただ、その答えを待つ。
「……、本当は、今すぐでも付き合うって言いたい。だけど、もしそうしてそれが間違いだった時のことを考えると、君はまだまだ若くて先があるから、俺のエゴで君をダメにはしたくない。
 だから……。
 少し一緒に考えよう。何が一番いい方法なのか」
 心の中がズキリと痛む、この場合榊なら、きっとこんなに手間隙かけない。
「何が……一番いい方法なのか……」
「ゆっくりでいいよ、僕を好きだと自覚してから、付き合いたいって思ってくれればいい。だから、別に電話をかけてくれたって、メールをしてくれたって、食事に誘ってくれたって、何だっていい」
「……なんだって……」
「そこで、君が僕のことを好きだと自覚したら、付き合おう」
「それまで、宮下店長が私のことを好きでいてくれますか? 私、それが心配だったんです。例えば、お見合いしたり……」
「ないない。
 正直に言おうか?」
「え……」
 一度視線が合うが、恥ずかしくて下げてしまう。
「香月がいいのなら、結婚したいって思ってる。だから、ゆっくりいきたい」
「え、けっ……」
 思ってもみない言葉に、すぐに顔が上がる。
「うん、まあ、そういう年齢でもあるし、まあ、ちょっと過ぎたかもしれないけどな。それに第一、この人なら大丈夫だという自信がある」
「……一緒に仕事をしていて感じたことですか?」
「うん、芯がしっかりしているからな」
「……私、お料理とか得意じゃないですけど……」
「香月が作った物ならなんでも食べるよ」