「うーん、どこで食事します?」
『あ、そうか……。駅ビルにするか』
「いいですよ」
『じゃあロビーで待ち合わせにするか?』
「はい」
 電話は簡単に切れる。
 緊張で食事が喉を通るだろうか……。
 今まで幾度となく、スタッフルームで食事を一緒にした宮下店長と、なぜ今更になって緊張などしたりするのか……。 
 自分でも可笑しい。
 トイレに行って、もう一度顔を確認。
 大丈夫、ちゃんといつもの顔になっている。
 予告通り10分せずにロビーに顔を見せた宮下は、店では見せないプライベートのスーツだったので、香月はさっきの落ち着きも忘れてドキリと心臓が鳴るのを覚えた。
「見間違えました……」
 俯き加減で最初の一言。
「え?」
「だっていつもって制服のスーツだから……」
「あぁ、そうか。あれ、見たことなかったっけ?」
「ないことはないけど……」
「どこ行く? 何食べたい?」
「え、あー、何でも」
 少し前、レイジとお茶したばかりだし、昼も十分食べたのでそれほど空腹ではないが。
「うーんと、和食か、洋食かどっちがいい?」
「和食」
「よしじゃあ、懐石でいいな」
「はい」
 エレベーターで77階まで上がり、宮下を先頭に迷わず店に入る。
「よく来るんですか?」
「2、3回来たかな」
 誰と? と聞いていいような悪いような。
 席に案内され、宮下が勝手に料理を注文した後に、香月はようやく話を始めた。
「お昼は佐伯さんと食事してたんです」
「ああ、佐伯、元気か?」
「はい、最近携帯のキャリアが変わって、ちょっと嫌がってはいますけど」
「うーん、なかなか難しいからな。けど、移動ということは、それだけスキルアップさせたい人物って意味だからな、特に女性は」
「え、そうなんですか?」
「携帯で経験を重ねる。実は大事なことなんだよ」