「ここ通るのも、久しぶりだな」

潮の香りがする防波堤横は、タケルの通学路ではない。

「さみぃって、ここ」
「だって海だもん」

いつもより強い風は、タケルのマフラーとあたしの茶色い髪を揺らす。
タケルの髪は黒かった。受験で黒くしてから、茶色には戻していない様だった。

「・・・・・・受験、どうだった?」

斜め前を歩くタケルが、少し躊躇しながら聞いてきた。

マフラーから覗く口元が、冷たい空気で少しかさついている。

「昨日、結果来た。・・・・・・受かったよ」

あたしがそう告げると、タケルは少し目を丸くして「まじで」と足を止めた。

止まった足は、あたしの足も止める。
2人はほんの少しの距離を保ったまま、足を止めて向き合った。

タケルがまっすぐあたしを見る。
その目に、素直な目に、見つめられるのは久しぶりだった。

タケルはあたしを見つめたまま、ゆっくりと優しい目元にしわを作る。
彼の笑うときの顔だった。

「・・・・・・おめでと」

彼の笑顔は、偽物なんかじゃなかった。
心からのおめでとうだった。
だてに3年近く一緒にいるわけじゃない。そういう事は、すぐにわかる。