「そっか」、増岡君が呟いて、おでこの汗を手の甲で拭った。
一瞬訪れた沈黙に気付いたかのように、蝉がいきなり鳴き出す。

「増岡君、受験勉強はどう?」

あたしは鳴き声をかいくぐって、聞いた。
何となく、沈黙が怖かった。

「うん、ぼちぼち。まあ、塾でしか勉強してないけどな」
「あたしも同じ」

受験生のあたし達にとっては話しやすい話題があってよかった。
タケルとは、こういう話はできなかった。

「こないだの模試でB判定出たから、何か気抜けてる」
「うそ、凄い」
「意外にね、できるんですよ」

増岡君が冗談っぽくそう言ったから、あたしは思わず笑ってしまった。
安心した。あの冬の日以来、こうやって2人で話すのは初めてだったから。


冬から春、そして夏へ。
変わっていくのは、季節だけではない。