「香」
公園の出口にさしかかった所だった。
呆然と歩いていたあたしの頭を、ぐっと引き寄せる力を感じる。
力を失っていたあたしは、簡単にその引力に捕まった。
「・・・・・・タケル?」
あたしの頭はタケルの胸元に抱えられていて、タケルの表情が見えない。
心臓の音は、ゆっくり確実に時を刻んでいた。
しばらく頭を片手で抱きしめられた状態でいたけど、やがてタケルはゆっくりとあたしから離れ、そのまま手を握って歩き出す。
あたしは何も言わなかった。
タケルが、何も言わなかったから。
気付けば2人の間には、ゆっくりと粉雪が降り注いでいた。