増岡君は固まってしまったあたしの腕をゆっくり放す。
あたしの腕は少し宙に浮いたまま、力強さの名残を感じていた。
「・・・・・・ご、めん」
戸惑っているのは、あたしだけではなかった。
増岡君は、あたしに一言そう告げて再び階段を駆けあがった。
残されたあたしは、増岡君の残した言葉を無意識に脳裏で繰り返す。
『ごめん』
あたしが、出すべき言葉。
告白されて、いつも繰り返し言っていた言葉。
どうしてだろう。
あたしの喉は固まって、全くその言葉を発しなかった。
ごめん。ごめんなさい。
増岡君、ごめんなさい。
思っても、何度思っても、声にならない。出てこない。
・・・・・・あたしは、その言葉を彼に告げる事ができない。