よく考えたら、あたしからタケルに声をかけるのは初めてだ。
そう思った瞬間、タケルが少し笑って言った。
「木崎から声かけられるの、初めてだ」
目尻にしわを作って笑う笑顔は、その頃から変わっていない。
その笑顔に胸を高鳴らせる自分も、その頃から変わっていない、のに。
どうしようもなく胸が苦しくて、溢れ出す気持ちがコップいっぱいになってるみたいで、一言何か口にしたらぶわっと水がこぼれてしまうくらいにぎりぎりで、とにかく、あたしは必死で。
ポケットにつっこんだ手を、勢いよくタケルの前につきだした。
「え?」
「あ、あげます!」
「何?」
タケルは首を傾げて自分の手を出す。
その手のひらに、あたしの手に包まれていた小さな四角いものが、ころりと転がった。
思い切り握っていたからか、角が少し丸みを帯びていた。
「・・・・・・チロルチョコ?」