でも、これが最後のチャンスだとも、みんな思っていたんだ。
タケルに彼女のいない、卒業を控えた最後の冬。
私立組は受験が終わり、もう卒業しか残されていない現実の中、何かを変えるには今しかないんだって、みんな。
あたしもそうだった。
でも、実行に移そうだなんて微塵も思っていなかった。
そんな勇気、あるはずもなかった。
ポケットに手を入れて、唇をかみしめる。
タケルと話す事ができるのは、後何回だろうと思った。
自分からは決して話しかけたりはしない。そんな勇気もない。
いつも、タケルから話しかけてくれた。
他愛ないものだった。「おはよ」「次、移動教室だっけ?」「木崎、髪切ったんだ」全部暗記してるくらいの些細な会話だったけど、それはあたしの中学生活の恋全てだった。
ふと、指先に固いものが触れた。
四角く小さなそれ。朝、コンビニで買ったミルク味のチロルチョコ。
あたしの体を温める為に買った。
こんな寒い夕方を乗り切る為の気休め。
指先で転がした後、そっとそれを握りしめる。