「・・・・・・香の家って、海沿いだったんだね」

初めて一緒に帰った日、タケルはそう言って珍しそうに海を眺めていた。

「俺山側だからさ。あんま、こっち来たことない」
「あたしも・・・・・・山側は、あんま、行かない」

緊張で押しつぶされそうな声でそう呟く。
波の音に消されて聞こえないんじゃないかと思ったが、タケルはちゃんと聞いてくれていた。

「あっち来ても何もないよ。海の近くの方がよかったって、俺よく思ってたもん。だから、香がこっちの方でよかった」
「え?何で?」

あたしが聞くと、タケルは目尻にしわを作った表情で言った。

「これから帰る時、いっつも海みれるじゃん」

その言葉の意味を考える様にあたしはタケルの顔を見ていたが、意味がわかると同時に、タケルの顔をこんなにも近くで見ている事実にも気づき、顔を真っ赤にして思い切り視線を反らす。

「どした?」
「な・・・・・・っ、何でもない!」
「はっ、香って、たまにおもしろい」

あたしの隣でご機嫌に笑うタケル。
その表情を見せているのはあたしだけで、あたしだけがこの道を彼と歩けるんだって思ったら、どうしようもなく胸が高鳴った。