派手な外傷はないから、頭を強く打ったのだろうか。弱っていた。
母は、猫を車道から歩道に移した。畑のあぜ、にそっと寝かせる。
「せめて、こっちに移そう。」
猫はまた血を吐いた。
もう間に合わないのは、明らかだった。詳しいことはわからなくても、何か、直感的に、そう感じた。
「…痛かったねえ。かわいそうにね。痛かったねえ。」
母は猫を優しくなでた。
私は立ち尽くしていた。
新しい寝床にも、血は滲んでゆく。
陽の光はずんずん弱っていった。気温もすぐに下がるだろう。猫は、寒い、寒いと思いながら、死んでいくのだろうか。