先輩の手招きを無視して
部屋の中を更に歩き回る。


本棚の洋書を1つつまみとり
中をパラパラと見てみるけど
さっぱりわからなかった。


『貸そうか?』


自分で持ってきたお茶に口をつけながら、意地悪そうな笑顔を作り言う。



『コレ、先輩は読めるの?』



『…読めないよ。
借り物だからね。』



先輩はコップを置き、立ち上がると私の持っていた洋書を丁寧に取り上げた。


数センチも離れていない距離は
体温が感じ取れるほどで

心地よく一定のリズムを保つ
心臓の音を近くに感じた。



先輩は私を挟んで本棚に
本を納めた。



そのまま後ろから抱き締めるように身体を預けてくる。



『…やっと俺に興味もててきた?』


少し屈めた身体で私の耳もとで
優しく柔らかく響く声。



他の男と一緒にいても

他の男に抱き締められても

思い出すのは聖の感触だけだった。




先輩の囁く声は
聖のと少し似ていた。