幸先輩は私を彼女から隠すかのように片手に引き寄せた。


あ…!そっか…。
これだったんだ…。


さっき彼女からした香水の香りは
幸先輩と同じだったんだ…。


『そ♪だから邪魔しないで〜』


幸先輩は私を抱えながら
彼女を追い払うように手をヒラヒラと振っていた。



『はいはい。お邪魔しました。
…あ!今日は遅くなるから冷蔵庫の温めて食べてね!』


……?


そう言うと、その女性は男性と一緒に駅の方へと姿を消していった。




『…………。

いつまでそうやってるつもりですか…?!』



その女性が行ってしまってからも
幸先輩が動く気配がなかったので
いい加減解放して欲しくて言った。



『……ぁあ!』



まるで金縛りが溶けたかのように
その瞬間に少しだけ腕の力が弛んだけど
思い出したかのようにすぐにまたその腕はもう一度私を包み込んだ。


今度はふざけてバグするように
ぎゅっと力をこめて。


『…っ!?
ちょっと!?』


『…なんか落ち着く〜♪』



幸先輩の温もりとあの香水の香りが、脳を支配していく。



人に抱き締められるのは
どこか甘く心地良いことだけど

一時の快楽と煩わしさは
背中合わせに存在している。