「小鳥遊、そろそろ近いと思うけど、家は……小鳥遊?」




車が、急に停まった。

流れている曲が、いつの間にかインスツルメントに変わっていたことに気づく。




「……なんで泣いてるんだ」




困惑したような、日下先生の声。



あたしは紙袋を握りしめて、声を我慢しながら泣いていた。


声はできても、涙は我慢できなかったんだ。




「おい、小鳥遊……」


「ごめん、なさい。送ってくれて、ありがとうございましたっ」




それだけ泣きながら早口で言って、あたしは車を飛び出した。


でもすぐに続いて出てきた先生に、腕をつかまれる。




「小鳥遊! ちょっと待て!」


「放してっ」


「なんで泣いてる!」


「先生には、関係……」


「関係ないとか言うなよ! おまえはもう充分、俺の中に踏み込んできてるんだ!」




強く腕を引かれて、その拍子にその手に持っていたバッグが落ちた。


その音に、先生がハッとしたように、あたしの腕を放す。