「・・・よろしければお皿お下げしてもよろしいでしょうか?」




笑みを含んだ丁寧な言葉遣いのソレは、どこかで聞いたことのある声で、
私と陽子ははっと顔を上げた。





「「・・・・ふじ先輩っ!?」」





ウェイターは、我らがサークルの副部長・藤谷広人(フジヤ ヒロト)先輩だった。


「キミたち、ちゃんと大学の授業には出てるの?さっきも加奈からサークルで金巻き上げたって報告メールが来たけど…」
「でっ、出てますよー!?も、もももちろん」


陽子の声が、思わず上ずる。
私はちゃんと出てるけど、陽子はちょっとサボり気味だ。



「陽子ちゃんは怪しいなー。それに比べていつかちゃんは偉いね。」
「私は他の人より遅れてますから・・・。」



苦笑い気味にいうと、先輩はくすりと笑う。




「そんないつかちゃんに遅れないようにね、陽子ちゃん。はいこれサービス」



とん、と小さなガトーショコラが二つ、テーブルに並べられた




「え、先輩、これ・・・いいんですかー!?」



陽子は目を輝かせて、先輩を見る。


「うん。だから部活の勝負では手加減してね・・・」
「あははは、ふじ先輩ったら」


困ったように笑う先輩がちょっと可笑しくて笑ってしまう。



「じゃ、ごゆっくり」
「「はーい」」



並べられた片方のガトーショコラを自分の前に持ってきて、じっくり眺める。
甘いものは私も陽子も大好きなので、嬉しくなってしまう。



「にしても、ふじ先輩ここでも働いてたんだなぁアタシ驚いちゃった!」
「うん、びっくりした~」




ふじ先輩はサークルの副部長だけれど、実家からの仕送りがキツイらしくバイトを掛け持ちしている典型的な苦学生。

この前は飲み屋さんでバイトしているのを見かけたし、ガソリンスタンドでも働いていたとささくんから聞いたので、一体いくつ掛け持ちをしているのかは分からない。



「でも、何でふじ先輩ってサークル入ってるの?」
「加奈先輩と同じ高校でクラスメイトで同じ部活だったんだってー。」
「へぇぇ、じゃあやっぱり昔から仲良かったんだねぇ」




ぱく、とガトーショコラを頬張りながら考える。





ふじ先輩はギャンブルがかなり弱いので、きっと加奈先輩に無理やりサークルに入れさせられたのかもしれない。
もしもそうだとすれば、そんな光景が目に浮かんでちょっと笑ってしまう。