「ねーちゃん、ありがとー。」
「いえいえ。」


智也が嬉しそうに、アタシ達に駆け寄った。
今は5時間目の授業が終わったところらしい。


「雨の中走って帰るとこだったぜ!それもそれでクールでいいと思ったけどな!」
「はぁ、そう・・」



智也は傘を受け取って、それを剣に見立てながら言う。



「文人も来てくれてありがとー!」
「ああ。近く寄っただけだから気にすんな」
「おうっ!」

智也は、憧れの木原に会えたからなのか、いつもよりテンションが高めだった。
木原はそれを知ってか知らずか、笑顔を見せる。




(いつかと子供には笑うのね・・・)





「じゃ、アタシたちもう行くから」
「おうっ」


小学校を出ると、まだ雨が小雨で降っている。
下には水溜りが出来ていて、歩くたびに水がはねる。




「俺んち近くだから、ここまででいい」



ふいに、木原が傘の中から離れた。



「あ・・・、・・そう、なんだ」
「おう。サンキューな、桜井」


何でだろう。
少し離れるだけで、不安になる。



木原はアタシの彼氏でも何でもない。・・・親友の、昔好きだった人なのに。




「どうした桜井?元気ねーぞ。」



木原は、アタシの顔を覗き込む。
やめてよ、そんな顔するの。






アタシ、アンタが・・・






「・・・木原」
「ん?」



覗き込む木原に、
──アタシは不意にキスをした。




「・・・っ!?」




木原は、驚いた顔をして、アタシを見る。



「じゃあねっ」




アタシは、雨のはねる中を走って帰っていった。
触れた唇が燃えそうなくらい熱い。









アタシ、──アンタが、好きなんだ。