「・・・木原っ!!」



桜井の怒った声が聞こえる。
いつかと付き合う前、・・・昔はよく、桜井はこうやってヘタレな俺を怒りに来たっけ。




「ちょっと、待ちなさいよ木原っっ!!!」




強い口調、殴らんばかりの勢いに俺は思わず立ち止まる。
けれど、わざと不機嫌な顔をして桜井を見つめる。

普通の奴だったらこの生まれつきの目付きで怯えるのに、桜井に限ってはそんなことは一切ないらしい。




「木原、・・・佐崎から聞いた?」




桜井が言わんとしてることはもちろん分かる。
いつかが、ささに告白したことだろう。


でも俺は、その話はできれば聞きたくないので思わず嘘を吐く。



「なんのことだ?」
「・・・知ってるくせに」


じゃあ何で聞くんだ。
とは言わない。言ってもしょうがないことだ。



「ねぇ、本当にそれでいいの?・・・後悔しない?」
「・・・・しねーよ。・・ささは良い奴だ。あいつなら任せられる。」



そう言って、視線を落とす。
渡したくない。
けど、そうするしかない。




───大切なのは昔じゃなくて今だ。






いつかの気持ちも、今はささに向いている。
だったらそれでいい。ささのほうがきっと、幸せにできるだろう。




「・・っとに、何でアンタは昔からそうなの!?事故の原因だって、木原のせいじゃないじゃないっ」
「でも、」
「なのに私たちに土下座までしてっ・・・二人の関係隠し通して!!」



気がつくと、桜井の目からは涙がこぼれていた。
こいつが泣くことじゃないのに。



「ごめん、アタシが泣くことじゃない、よね」
「ああ、そうだな」



全くだよ、桜井は何も悪くない。むしろお前は良い奴だ。
いつかも、こんな友達を持って幸せなんだろうな。





「けど、心配してくれて嬉しいよ。ありがとな、桜井」



ぽんぽん、と頭をなでる。



「ちょっと・・・子供扱いですか?」
「ちげーよ、慰めてんの」
「・・・そーいうのいらない」




普段は強がりだけど、親友のこととなると本気で心配して、口出してくる奴。

でもそーいう奴は嫌いじゃない。
ささに似て、良い奴だ。