「頼む・・・っ!!」



いつも静かでクールな彼の、こんな姿を始めてみた。
アタシは、どうして彼がこんなことをするのか一切理解できなかった。




「・・・ねぇ~ふみくん、顔をあげて・・?」
加奈先輩は、珍しく困った様子で彼の目線と同じ高さになって言う。




「そうだよ文人。キミがそんなことする必要なんてないんだよ」
ふじ先輩も、いつもの優しい口調で木原を諭す。






それでも、木原は微動だにせず土下座を続ける。






「木原・・・」「文人、おまえ・・」

アタシと佐崎も、顔をあわせて困惑する。




「お願いします。アイツ、今大学入ってからの記憶、全くないらしいんです。だったら俺みたいな馬鹿のこと、わざわざ教えてやる義理ないんで」
「木原、それマジで言ってんの?いつかの気持ち、理解してんの!?」




イライラした。
なんだ、それは。





「してる。アイツは、俺みたいな最低な奴を好きになった。でもアイツにはもう記憶がない。だったらわざわざ俺といつかが付き合ってたことをバラさなくていい。記憶を失くして大変なのに、俺とのことで気負わせたくない」


「でも、いっちゃんはそんなこと思ってないはずよ・・・?」



加奈先輩は諭すように言うが、木原は静かに首を横に振る。





「事故に合う前だったら、ですよ。・・・今は違います。だからいいんです。」








”あいつと付き合えたのはたった数ヶ月だったけど、俺、幸せですから。”







そう言って、仏頂面の木原が笑った。

木原が笑うのは、絶対にいつかの前だけだったのに。