空には既に、ほんのり暖かい太陽がのぼっていた。
竜馬の行っている鳳凰中央高校(ほうおうちゅうおうこうこう)は、この辺りの小田舎だけでなく、ド田舎や都会の生徒も多く来る。個性的な生徒が集まり面白い学校だ。
竜馬の家からなら自転車通学もOKだが、竜馬は歩いて通学している。
竜馬が小学校を過ぎた頃。
「タツー!!おはよぅ!!」
竜馬が振り向く。無駄にテンションの高い、聞き覚えのある声。
「翔、おはよう」
竜馬の親友、角田翔(かどたしょう)だった。
翔は竜馬の背中をビシビシ殴って笑っている。
「お前、今日は早いな。いつもは遅刻寸前なのに…」
「俺は心を入れ替えたんだよ。第一、健康にいいだろ!?」
翔とは中1のときからの付き合いだ。竜馬よりは成績は良いのだが、遅刻が多く、高校受験も危うかった。
竜馬は苦笑いして言った。
「何が健康だ。どうせチョコ狙いだろうが」
翔は頭をかいた。
「鋭いなー」
「翔の事なら何でもわかる」
竜馬は嬉しそうに言う。
「タツはチョコ貰うあてあんのか?」
「ねーよ。…あ、あるある」
「誰誰?」
翔は目を輝かせて聞く。
竜馬は翔を焦らしてから小さく言った。
「…母さん」
翔は竜馬にドン引きの顔をしながらにやけて言う。
「母ちゃんのあてにすんなよ。マザコンか?」
「…うっせー」

そうこうしている間に、鳳凰中央高校についた。
北校舎と南校舎の間にある大きな桜の木の影は、竜馬と翔のお気に入りの場所だ。
他にも、何故か使われていない南校舎の裏の倉庫や、屋上へ向かうための階段など、2人だけの(?)秘密の場所はいくつかある。
竜馬と翔は2人とも同じクラスの1-Cだ。
残念ながら2人の靴箱にはチョコは入っていない。

竜馬は教室に行き、一番左の後ろから二番目の自分の席に座る。
8時30分にホームルームが始まるが、まだ10分もある。
翔が後ろから話しかける。
翔は竜馬の右斜め後ろに座っている。
「タツ?じゃん!!」
あまり盛り上がらない声で鞄の中から赤い箱を出す。
「さっき廊下で貰ったんだ。メッチャ可愛い子にさ。1-Aの子らしいけど。まあ俺みたいなイケメンなら貰って当然だけどな!!」
翔はニヤニヤしながら箱を見せびらかす。
「ふぅ~ん。よかったなぁ~」
竜馬は興味がない、というように笑った。
「うわぁ~強がるなって。でもまあ、タツには母ちゃんがいるしなー。」
「俺は…」
翔は竜馬が言おうとするのを遮り、
「母ちゃんが好きなだけ?」
竜馬も笑ってしまった。