「私よく行くんだよねー。その店」



…そんな事、全く気付かなかった。




「………もしかして常連さんなの?」




いや、まさか。そんなわけないよね。

それはあまりにも失礼すぎるし。

それに私は店で内職しているわけではなく、こう見えても接客を担当しているのだ。
人付き合いは苦手だけれど、愛想笑いを浮かべる術は持っている。


深い付き合いをするわけじゃなかったら、そんなに支障はない。





「仕方ないよ。忙しそうだったし。遠くから見かけただけだしね!
それにこうしてちょくちょく話すようになってからは、店の方にもあまり顔出してないし」




「……………そっか…」





…ダメだ、いたたまれなさすぎる。

きっとバイト先を全て知っているという事は、全ての店に訪れたという事だ。
それなのに、私は雫の事を全く覚えていない。記憶の断片にも残っていないのだ。

こんなに綺麗な人なら覚えていても良いはずなのに…
私は一体バイト中にどれだけ集中していないんだ。