「おっはよー!空!…私のこと覚えてる?」



「おはよう、雫(シズク)」



「良かったー。覚えててくれてたんだ」





私が席に着くなり、声を掛けて来てくれたのは、雨宮雫。
同じクラスメートで私とは正反対でとても明るく、ふわりとしたカールにスッとした綺麗な目の人だった。



高校に入学して1ヶ月。まだ、クラスの全員の名前を覚えきれてない時期。


特に私の場合は何回も引っ越しする癖が体にしみついてしまって、極力皆と関わらないようにしているというせいもあり、人の名前を覚えるのは苦手だった。



―――覚えても、必ず別れはやって来る。




それに、私は人付き合いが得意ではなかった。


面白い話題も、最近の流行も、浮ついた話も全部私には出来なかった。


何も特徴が無くて空気みたいな存在。


でも、私はその位置が1番安定していて居心地が良かったんだ。
実際、私はその位置を望んでいた。





でも。




「雫は私に初めて声をかけてきてくれた人だから」





席が近い訳でもないのに、雫は教室の隅っこにある窓際の席まで足を運び声を掛けてくれたのだ。