「いってきます」



「いってらっしゃい、空ちゃん」






私の名前は香椎空(カシイソラ)。


両親を幼い頃に亡くし、親戚の家をたらい回しにされた私を拾ってくれたのは、心優しい藤原夫妻だった。


とても感謝している。


先々月の3月にここへやって来て、正直今まで都会暮らしが多かったのだが、こののどかな空気に、登校中に見える田園風景は私の肌に合う気がした。

親戚の家は大体同じ地方に固まっていて、どこへ行っても落ち着かなかった。
だけど、藤原さんたちの家は、私の両親から本当に遠縁にあたる人でほとんど関わりがなかったのに。


藤原さんたちが親戚の人に頼み込んで私を家へ呼んでくれたのだ。


いつもは親戚同士で私を押し付け押し付けられが当たり前の世界だった。


“歓迎”なんて有り得ない空想の世界だったんだ。
だけど、藤原さん夫妻は私を見ても嫌な顔1つせず、私に宜しくねと微笑んでくれた。


そして現在は高校にも通わせてもらっている。



私はまだ長い年月を藤原さんたちと過ごしているわけではないけれど、ここに少しでも長く置いてもらいたいと願っている。