「俺もフェイクだ。オリジナルになれりゃそれが一番いいが、なかなか上手くいかんよ。俺は馬鹿だから余計だ」
 彼は苦笑いをしジョーカーを噛み潰す。
 馬鹿でフリークスなあたし、馬鹿でフェイクな彼、だけどあたしには彼がフェイクには見えない。どこまでも純粋なオリジナルに見えた。

「……あんたはオリジナルだよ。あたしみたいな腐れプッシーじゃない」
 あたしの目に映る彼は、獰猛で鋭く尖り、何者にも屈せず、何者も支配しようとしない。

 生まれて初めて、男が欲しいと思った。あたしは馬鹿でフリークスだから、欲しい男だけでもオリジナルでいて欲しいと思った。あたしみたいなガキを相手にするような男じゃないだろうけど、あたしはこの男が欲しい。パパみたいなフェイクなんかいらない。お金なんてもっといらない。ブランドのトートバッグとか財布に何の意味があるのか、何となくだけれど分かった気がする。

 きっとあたしはオリジナルにはなれない。でもだから、オリジナルの男が欲しい。それが今、あたしの前にいる。
 ぞくぞくと背筋を快感が走った。自分が欲情に駆り立てられているのがはっきりと分かった。

「俺はオリジナルじゃねえっつってんだろ」
「それを決めるのはあんたじゃないんだろ。今はあたしだよ」
 不意に気付く。彼は自分をオリジナルにしたいと思い願い、その道を歩いている。それは彼が心の奥に持つ苦悩を表しているんだ。
 あたしの言葉を聞いた彼は苦笑し、メッシュの頭をぼりぼりと掻いた。

「じゃあお前が腐れプッシーかどうかを決めんのは、俺だ」
 そう告げると彼はフラフラと立ち上がる。そして繁華街の光を睨み付けるとゆっくりと歩き始めた。あたしも立ち上がり、彼の後姿を見詰めながら歩き始める。まだあたしには、彼について分からないことばかりだけど、あたしは彼が欲しい。それだけは間違いない事実だ。

 あたしは馬鹿でフリークスだから、きっとフェイクにしかなれない。仮初の乙女のままでもいい。ただ彼が欲しい。彼を、オリジナルってやつを、もっと見てみたい。
 漂ってくる汗とコロンの香りに酔いながら、あたしは彼の背中を追った。