ただの悪夢だったらいいけれど、あの苦しみ方は普通じゃなかった。あたしの思い過ごしならいいのだけれど。でも今まで色々な彼を見ていたから、少なくとも普通の生き方ができないひとなのは分かっている。普通の生き方ができないのは、普通に生きられなかったからだ。

 あたしだってそうだ。普通に生きることができたのならそうしていた。でも、そんな生き方はできなかったし、許されなかった。

 あたしはアキラに出逢ってから今まで、ずっとアキラに守られてきた。アキラに出逢ってリストカットもウリもやめた。真っ直ぐに上を向くことができた。
 でもアキラはきっと誰にも守ってもらえなかった。だからあんなに尖っていた。

 泣き疲れて眠った子供のように無防備なアキラを見ていて、あたしはどうしようもなく苦しくなった。こんなにボロボロになるまでひとりで耐えて、何の当てのないオリジナルを探し続けてきたひと。きっと心に深い傷を負っているはずなのに、自分よりもあたしを守ろうとしてくれるひと。

 頬を涙が伝うのが分かった。この自分の逃げ場所にあたしを連れてきた。それだけで分かる。彼はあたしに、自分の弱さを受け止めて欲しかったんだ。

 あの公園で泣いていたあたしを見付けてくれたあの時、それが偶然なのか必然なのかは分からないけど、もしかしたら彼は自分と泣いているあたしを重ねたのかもしれない。

 なんてこともない、あたしはずっとアキラに求められていたんだ。ただあたしが馬鹿で自分勝手だから、気付かなかっただけなんだ。

 伝った涙が、アキラの頬に落ちた。
 その瞬間、アキラの目がまたうっすらと開いた。そして小さく、本当に小さく、笑ってくれた。
 あたしも泣きながら、笑みを返す。

 気付くのが遅くなってごめんね。あたし、あなたからのSOS、ちゃんと受け取ったよ。だからもう苦しまないで。あなたが安心して眠れるように必ずしてあげるから。

 あたしがあなたを、全ての悪意から守るから。
 あたしが居場所を求めていたように、あなたも居場所を探していたんだね。
 あたしが守る。

 絶対に、守るよ。