「お前、こんなところで何やってんだ」
 パパに抱かれてお金もらっていました、とはさすがに言えなかった。それを告げたらきっと怒るに違いないと思ったから。苦笑を浮かべて男の対面に座る。そして膝を抱えてそこに頭を預けた。

「世の中つまんねえってツラしてんな、お前」
 内心、ぎくりとしてしまった。そんな風に考えたことなんて一度もなかったのに。面白くない毎日だけど、お金があれば遊べるし欲しいものも買える。それでそれなりに幸せだって、どうでもいいって思っていたはずなのに。
 彼はジョーカーを口の端に咥えたまま、あたしの目を見据えてこう言い切ってしまった。

「つまんねえのは世の中のせいじゃねえ。お前の目が腐ってんから、そう見えるだけだ」
 腐った目、あたしの目は腐っているんだろうか。とてもそうとは思えない。あたしはあたしの人生を謳歌している。確かにバイトするのがかったるくてウリなんてやってるけど、あたしは別に後悔なんてしてない。なのにあたしの目は腐っているというの?
 そんなのってこの男の偏見じゃない。自分の価値観に合わない相手を見下すなんて最低じゃないか。

「自分の価値を決めるのは自分だとかなんとか、戯言抜かすなよ。価値を決めるのはお前を見ている人間だ、お前じゃねぇよ」
 あたしの価値、それってなんだろう。自分がいいと思っていたらそれでいいはずなのに。

 例えば、パパはあたしをどう思っているだろう。可愛い愛人とかなのかな?
 いや違う、絶対に違う。金さえ払えば股を開く都合のいい女に決まってる。そんなこと当たり前じゃないか。あたしはお金が欲しくて抱かれていたんだから。

 あたしは一回たった何万円かの価値しかないんだ。彼の言うとおりだ。あたしの価値はあたしが決めているんじゃない。周りの人間が勝手に決めていた。あたしの友達はみんな、何の不安も罪の意識もなくお金で男に抱かれている。それじゃあみんな、そんな価値しかないんだ。

 なんてみっともない、なんてみすぼらしい、なんて穢いんだろう。