不意に目に入った一人の中年親父。

 パパの車から降りて繁華街から裏道に入ったところで、ビルの壁にもたれながらその中年親父は座っていた。メッシュの短髪が闇の中で光を放っている。胸元を肌蹴た黒いシャツから覗くのはフレイムパターンのタトゥー、膝の破れたジーンズに雪駄、だけど印象深いのはその強い力を秘めた目だった。
 唐突に視線が重なる。思わずたじろいでしまった。パパと同じくらいの歳だろうか。

「ガキ、なんか用か」
 唐突にその男が低い声を発した。少し掠れたまるで猛獣が唸るような声。パパみたいな優しさは欠片も感じない。こいつはきっと女は犯すに違いないと思った。

 あたしは男を睨みつけながら首を横に振る。男が獰猛な何かを隠しているように思えて、あたしはまた一歩、たじろぐ。だけど、男が妙に格好よく見えた。パパはブランドのスーツを着こなし高い外車を乗り回している。でも金額ではない、もっと根本的な何かがパパとは違うように思えた。

 あたしは馬鹿でフリークスだから上手く言葉にできないけれど、彼は澱んでいないと思った。男とか女とか、強さとか弱さとか、金持ちとか貧乏とか、二枚目とか不細工とか、良識者とか悪党とか、そんな色々な形に囚われていないように思えた。どちらかというとアウトローのように見える。パパみたいな理知的な印象は受けない。何ていうか、非合法薬物とか決めてる感じ。

「だから、なんなんだ、お前」
 不愉快そうに男の眉間に皺が寄る。途端に彼から獰猛なモノが発せられた。彼はきっと邪魔だと思えば女でも平気で殴るだろう。あたしは慌てて笑って誤魔化した。

 男は不愉快そうに鼻を鳴らして、懐からジョーカーを抜くと火を点して紫煙を吐いた。あたしはそれをじっと見詰める。視線を合わせるのが恐いくらいなのに、どうしてこんなに目を背けられないんだろう。