家族風呂の脱衣所に入って浴衣を脱ごうとした瞬間、あたしは後からアキラに抱き締められていた。彼があたしの首筋に舌を這わせながら、あたしの汗の匂いを嗅いでいるのが分かった。

 浴衣の隙間から彼の手が侵入してきて、あたしの乳房を優しく愛撫し始める。あたしはその行為を抗えず、ただ唇を噛み締めて喘ぎ声を押し殺した。優しく、甘く、あたしの心を蕩けさせていくそれを拒むことはできなかった。
 あたしは必死に心の中に湧き上がる強い想いを押し殺した。

 どうしよう、もう我慢できない。できそうもない。どんなに気持ちを押し殺そうとしても、それをアキラは許してくれない。
 どうしてそんなにあたしを煽るの?
 あたしはあんたみたいなオリジナルには見合わない、屑みたいな女なのに。

 お蕎麦屋さんで言ってくれた言葉、凄く嬉しかった。あたし、遊ばれていないだけでも幸せなんだよ。
 でも、あたしはきっとあんたの重荷になってしまう。あんたがオリジナルを求めるそれを邪魔してしまう。

 そんなの絶対に嫌だ。

 本音はずっと傍にいたい。無愛想なあんたが見せてくれる、あのはにかんだ笑顔がもっと見たい。もっともっと抱いて欲しい。嘘でもいいから愛されているって、そんな証が欲しい。

 でも、あたしの我侭にあんたを付き合わせるのって、おかしいじゃない。
 だからお願い。これ以上、あたしの心を乱さないでよ。煽らないでよ。優しくしないでよ。冷たくあしらってよ。もう我慢できなくなっちゃう。想いを吐き出したくなるよ。

 必死になってあたしは気持ちを押し殺す。でもアキラの舌が、指先が、あたしの身体を火照らせて、心を掻き乱してしまう。

 駄目、駄目、駄目だってば。あたしみたいな馬鹿を相手しちゃ、駄目なんだってば。あんたにはきっと、女将さんみたいにものすごくいい女がもっと先で待っているんだよ。